過去【前編】

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人工的なものなのか、元からなのか、紅い瞳が一層それを思わせる。 普通なら“異常”だとさえ思う瞳の色は、彼女の整い過ぎた顔によく似合っていて俺は不覚にも綺麗だと思った。 思わず見入っていると、少女が顔を上げてもう一度呟く。 「パンツ、濡れた…」 「………」 「びしょびしょ…」 「………」 「ちべたい…」 「………」 「…………パンツ…」 …何なんだろうこいつ。 チラチラとこっちを見たり目を逸らしたり、最初は潮らしいとか思わなかったわけじゃないけど、言ってることがパンツだしなんか段々苛ついてきた。 もう放っておいていいんじゃないかと思い、踵を返して帰ろうとしたら何故かがっしりと腕を掴まれ、鳥肌が立って慌てて振り解こうにも思いの外力が強くて振り解けない。 …っ、この、怪力女…! 舌打ちをして怪力女、もとい少女に向き直ると途端に不安げな顔がぱっと花が咲いたように明るくなる。 女嫌いな筈の俺が「うっ」と尻込みしてしまうくらいには少女の笑顔は可愛…眩しくて直視出来ない。 これ以上ここにいちゃ駄目だ、と俺の中の何かが告げている。けれど少女の手は振りほどけない。 数分間何とか逃れようと試みたものの、結局その行為も無駄に終わることになった。 パンツのくせに…と内心恨めしい気持ちでいっぱいだったが大きな溜め息一つで何とか口に出すのだけは我慢する。 折れたのは俺の方で、仕方なく少女に付き合ってやることにした。 「……何?」 転ばせたのは俺だし、この言い方は若干…いや、大分違う気がするが、少女はそれを気にした様子もなく満々の笑顔で口を開く。 「やっと喋った!」 …何がそんなに嬉しいんだか。 おいしょ、という掛け声付きで立ち上がった少女は意外にも俺と同じくらいの身長で少し複雑な気分だ。 「いやあ、恥ずかしながら迷子になっちゃって。俺と同年代くらいの子がいてくれて助かったよ~」 「大人の人には声掛け辛くて」と恥ずかしそうに言う少女の話し方に少しばかり違和感を覚えたが、まあ気のせいだろう。 それよりも、俺は助けるとは一言も言ってないのになんでこいつは俺に助けてもらう気満々なんだろうか。 「君、ここらに住んでるの?ちょっと道を教えて欲しいんだけど…」 「やだ」 「えっ」 断られると思ってなかったのか、驚いて少女の手が緩んだ隙に俺は手を振り払って帰ろうとした。 .
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