死神堂書店

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 そんなはずはないと、通りを行ったり来たりしているうちに近くに玄関先を掃除しているおばさんがいたので訊いてみる。 「あのう、すみませんが、あそこにあった市仁上堂書店という本屋はどうなったんですかね?」  おばさんはふりむいて「は?」という表情をする。 「あそこあたりにあった本屋」と指をさしてみる。 「本屋? そんなものないよ」 「いやいや。たしかに数日前にはありましたよ」  おばさんは首をかしげた。「そんなもの見たことないよ。どこかと間違えてんじゃないの」  というと、おかしなこというね、という顔で玄関から入って行った。  とり残された私は、しばし茫然とした。  これはどういうことなのか。  あの市仁上堂書店は幻だったのか。  いやいや、そんなことはない。  げんに店主にもらった本は自宅にある。それがこの世に市仁上堂書店があったことを証明している。  私は不安になって自宅にもどり、本をみてみた。やはりその本はあったし、内容もかわらない。  これはどういうことなのか。  私はあの店主が死神ではないかと考えてみたが、こうなってみるとそれは本当のことなのではないかと思えてきた。
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