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知恵は、洗いものの手を止めて、ジローの方を向いた。
キスしようとしてるジローをかわして、ダイニングの椅子に座った。
知恵の目が潤んでいた…
「たぶん…
誰かに愛されたかった…
愛したかった…
それだけだったんだと思う。
若い頃、20代前半…
付き合ってた女がいた…
俺も本気でそいつを守ろうと思ってた…
でも、全然食えなくて…
彼女が結婚したいって言った時、無理だって言った…
それは、今は無理って意味だったのに、彼女は俺の前から消えた…
他の男と結婚するって…
それからかな…
誰にも心を動かされないように鎧を着て…
ただ、生きてた…
でも、今でもはっきりと覚えてる。
あのスタジオで、知恵がキラキラした目で撮影を見ていた横顔…
それまで感じた事のないドキドキ…
また逢えるのかわからないから…
写真に残しておきたかった。
そのドキドキが何なのか…
自分でも、よくわからなかった。
ろくに恋愛してなかったから…」
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