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そう決めた途端、白い部屋は消え失せていた。
目の前には、さっきと変わらない様子のタカヤが佇んでいる。
「……分かった」
俺は、命が削られることより、“あの日”を忘れられる方を選んだ。
タカヤが不思議そうに首を傾げる。
1回の交渉で受け入れてもらえるとは思っていなかったらしい。
「では、また後日」
「ああ……」
影時間が終わると同時に、奴らは去って行った。
「……寒いな」
秋の訪れを報せる涼しい風は、俺の体の熱を芯から奪って行った。
それから半年。
ストレガの連中は、ネットを使って情報を得るようになった。
俺の役割も変わり、奴らと接触する機会も増えた。
最近、薬を飲む回数が増えてきたように感じる。
俺の寿命は、もう残り少ないらしい。
《死神》の姿がはっきり見える。
最近になって気付いたが、見た目だけなら俺と変わらない……白い髪と黒い目をした男。
《死神》にそれを伝えるとケラケラと笑って、実はその200倍の年齢だとか言っていたが……嘘が下手すぎんだろ。
4月に入って長袖とコートが手離せなくなった。
《死神》は、俺を離れて動くことが増えていった。
誰かを探していると言っていたが、相手について語ろうとはしなかった。
――4月6日――
「来た……!」
《死神》は嬉しそうに呟いた。
影時間の月は怪しく光り輝き、《死神》の白い髪や肌を照らす。
その様子を、俺は、ただ見つめているしか出来なかった。
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