晩秋の来訪Ⅲ

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  「水石はソリューレモの特産だったな。これは、その土産物と言う訳か」耳に下がる水色の石を指先で弾く。「先日の遠出先はソリューレモなんだな」  一口グラスを傾けてから、パシヴィルは頷いた。 「あの召使の子も、その時頼まれて連れてきた」 「ふん」鼻を鳴らしてから、言うべき事を探して水色の眼差しがさまよう。「『彼』との旅路など、今度が初めてではないだろう?」 「まあな。南街道周辺諸国との折衝には、ほとんど供をした」ゆっくり歩を進めて、パシヴィルは自分用のソファへ身を沈めた。「だから――今回もそうだと思っていたんだが」  フェルマイズの片眉が上がる。 「違ったのか?」 「現地で落ち合うと言う事で、何か極秘の仕事かと思っていたら」小さく笑いの吐息が漏れる。「……羽根を伸ばすから付き合えと」 「相変わらずの無茶ぶりだ」フェルマイズは喉奥で唸った。「一緒に行ったのなら、こちらも気づいたが、二人の出立が三日ほどずれていたので分からなかった」  自分こそまるで自棄のように竜酒を一飲みすると、目の高さに掲げたグラス越しに友人を見遣る。 「で、見事、本懐を遂げたのか?」  語調に険が出たのは、フェルマイズ自身にも意外だった。  今まで手元のグラスに向けていた視線をパシヴィルが友人に移し、ひたと見据える。酷薄な笑みが口端に浮かんだ。 「……そうだと言ったら?」  その言葉に水色の目元が歪み、奥歯が一瞬噛締められる。 「帰る」  立ち上がったフェルマイズはグラスをテーブルに置き、相手のソファの横を通り過ぎようとした。しかし腕を強い力で掴まれ、抵抗する間もなく引き寄せられる。バランスを崩した体が、そのまま仰向けに相手の膝の上に落ち、思わず怒りの叫びが上がった。 「止めろ!」 「驚いた」上からパシヴィルの硬い瞳が覗き込む。「こんな冗談が通じないとは思わなかった」  口を引き結び、嫌悪を露わにしたフェルマイズは、押さえつける手を振り払い跳ね起きた。相手に背を見せたまま、腰に手を当て首を振る。 「ひどい冗談だ」  
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