晩秋の来訪Ⅱ

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   一番激しい動きを最後に一通りの型が終わり、パシヴィルは剣先を下ろした。サンルームの端にある剣立てに歩み寄り、抜き取ったサーベルの一本を友人に投げてよこす。 「この所、型ばかりで体が鈍ってしようがない。相手をしろ」  反射的に柄を取ったフェルマイズが、渋い顔を見せる。 「ええ? こちらは昼間、あのラウィーザと散々やり合ってきたんだ。勘弁してほしいよ」 「文句を言うな。これも石代と思え」  眉をそびやかした相手の命令口調に、唇を尖らす。 「なんだ、さっきは燻製で充分とかの口ぶりだったのに。剣を合わせたいのなら訓練所に来ればいくらでも……」  そこまで言いかけ言葉を切った。ちらりと向けた友人の顔に変化はない。肩をすくめて上着を脱ぎ始める。 「分かった。水石の恩義がある以上、今日の私はお前の奴隷になるしかない」 「人聞きの悪いことを言うな。まったく予想外でもないのだろう?」  パシヴィルの苦笑が洩れたのは、上着の下から現れた友人の服装が、訪問着とはほど遠い訓練仕様だったからだ。 「ああ、嫌になるよ、長い付き合いというのは。互いの行動がツーカーのごとく分かってしまう」気だるそうに剣をぶらぶら振りながら、友人が待つ先へ歩を運ぶ。「我ながら、この気の回りすぎる性格をなんとかしたい」  心底嫌そうに水色の瞳を曇らせていたが、投げやりな足を間合いに入れた途端、素早い切っ先が相手の眼前を襲った。しかし向こうもすでに承知済みか、最小限の動きでそれをかわすと、矢継ぎ早に繰り出される剣に応酬した。  鉄柵を続けて打つような速い剣戟の響き。床に落ちる二人の影が飛燕のように交差する。互いを狙う刃先は、模擬剣とはいえその一振りが決まれば命に関わる程に鋭い。それでも全ての力は一寸たりとも抜かれず、無数の合が重ねられた。  と、ひと際強く踏みだした脚と共に、パシヴィルの突きが友人の体勢を崩した。続く厳しい払いで、手から飛ばされた得物が音を立てて床を転がる。フェルマイズも勢いに床へ腰を落とし、両手を床に着けたまま汗に髪がへばりつく首をやれやれとばかりに振った。
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