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構えを解いたパシヴィルが、息をつきながら額の汗を拭う。ゆっくり歩み寄り、いつまでも座り込んでいる友人に手を貸そうとした時。床に投げ出されていた脚先が伸び上がった。手にする剣を蹴り落とされ、瞬時に起きる体が腰から抜いた短剣を向けて胸元に飛び込んでくる。が、これも寸瞬の間で身を捻り、刃を握る手首を掴みあげた。
それでもフェルマイズの動きは止まらない。捉われた腕をそのままに後ろへ回り込み、もう一方の袖口から歯で引き抜いた革紐を、素早く相手の首に回しかけた。満身の力で引かれた瞬間、それがぶつりと切れる。
力の行き場を失い、再び倒れかける体。それをパシヴィルの腕が抱き止め、がくりと反らした首を引き寄せた。喘ぐ口元をいきなり唇で塞ぐ。乱暴に舌が滑り込み、反撃を断たれ無防備となった口中を荒らし回る。息継ぐ間もない執拗な責めに、フェルマイズの喉は次第に震えだし、掻き上がった両の手が短い髪の頭を挟み込んだ。
「……ん、んん……くっ」
互いの首を思い切り引き離し、笛のような音を立てて、一杯に開いた口から激しい息が吐き出された。
「こ、こら……ちょっと、なが……長すぎ……」
パシヴィルは困憊の友人を見下ろし、口端を上げた。
「相変わらず、汚い奴だ」
「それでも引っ掛からないお前の方が、相当汚い」水色の瞳が恨みがましく眇められる。「ラウィーザなぞ、すぐに騙されるのに」
「何年の付き合いだと思っている。あの青二才と一緒にするな」
抱き支えた体を徐々に床に横たえ、汗に湿る頬を舌先でなぞり始める。その感触にくつくつ笑いながら、フェルマイズが目配せした。
「けれど、私の勝ちだな。紐さえ切れなければ、失神していたろう?」
「そうか?」パシヴィルは片手を掲げて、掌に隠れるほどの小さなナイフと、首にかかったままの革紐の切り口を示した。「すっぱりだ」
落胆に、たちまち笑みが渋くなる。
「いい加減、耄碌してくれ」
「直にな。間もなく辞める」驚いて見開かれた水色の瞳に、頷きを返す。「何年も前から言われていたが、次の仕事が終わったら一線から退く事にした」
「そう、か」
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