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毎晩、家畜がいなくなる。
最初は夜に、一頭か二頭ずつ、飼い主の隙をつくようにいなくなった。
次第に、昼間でも家畜から目を離すと、消えていくようになった。
直接姿を見た人はいなかったけど、大型の獣のような息づかいを聞いたとか、影を見たとか、あちこちでそんな話が飛び交った。
里の大人は当然のように、真っ黒のヒトの連れていたケモノを疑った。
ついには、抗議をしに行って‥‥その人も、いなくなった。
翌日の朝、薄汚れた頭蓋骨が、里の真ん中に掲げられていた。
里中が震え上がった。
だって、そうでしょう? 家畜も大切だけど、まさか人間まで‥‥。
家畜を小屋に押し込んでも、家に子どもを閉じこめても、被害は広がるばかりだった。
里のはずれよりももっと奥の、古い遺跡に棲みついてるってウワサもあった。
‥‥確かめに行けば、自分たちが二の舞を踏むのはわかりきってたから、誰も行けなかったけど。
━━ でも、あたしは知っていた。そのウワサがたぶん、ほんとだろうって。
だって、見てしまったんだ。
三軒隣の家の赤ん坊を‥‥、
あのケモノが、ひと呑みにできるくらい大きな口でくわえて、連れ去るところを‥‥。
濁った眼に映らないことを、恐さで体の動かないあたしは、必死に願うしかできなくて。
横にいた愛犬のパムが、アイツらに吠えかかって追っていくのを、ようやく追いかけることができたときには
兄弟みたいに育ったパムが、里のはずれよりも奥へと、
アイツらと一緒に、消えていくところだった ━━。
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