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宿なんて、こんな小さな里にはないから、訪れた人はいつも、一番大きい里長の家に泊まっていく。
この時も同じだった。
お母さんは、戦士さんたちの食事の支度を手伝いに出かけてる。
コッソリ、家を出た。
パムは戻ってきてない。
赤ん坊も、いなくなった里の人たちも。
あたしは、見ていたのに‥‥なにもできなかった。
恐さに震えているだけだった。
無力だ。
あたしは、無力だ。
だから ━━、家畜の番をするのに使う角笛を、ギュッと握った。
里長の家の裏口の横の窓を、つま先立ってのぞき込む。
いた。戦士さんたち。
なにか、話してる‥‥。
「‥‥なぁ、ホントに行くのか」
「ああ」
「だけど、いまのわたしたちじゃ‥‥」
「‥‥厳しい、だろうとわかってはいる」
少し低い女の人の声は、あの背の高い人だ‥‥。
「だけど、魔物を狩っていればいつかは、対峙する時が来たはずだ。
それが今になっただけのこと。
だとすればきっと、
これも、運命なんだ ━━」
そのコトバはどうしてか、
外にいるあたしの耳に、どんな音よりも、あざやかに聞こえた。
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