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中間テストを終えたぼくは本格的に冬休みとなる。
勿論朱子はそのタイミングを見計らったのだろうけれど、この時期に実家に帰るのは正直気乗りしなかったというのがあるわけだ。
実家には帰りたくない。
正月だろうと、ぼくは実家には帰りたくない。
地元には、戻りたくない。
朱子の運転する車の助手席で憂鬱な顔を浮かべている、それが理由だった。
「こうでもしないと、でも幕堂君は実家に帰らないだろうね」
「……分かってるならほうっておけよ。お前はいつもそうだよな。ぼくの味方なんじゃなくて、誰も彼もの味方なんだ」
「上手い事を言う。そうだろうな。私は、そうありたいものだと思っているよ」
「それはずるいぜ、朱子。それはずるい。お前のやってることはなあ――」
「――正義の押し売り、だろう?幕堂君が昔に言った言葉。実は私、この言葉がかなり気に入っていてね?」
空港に行く前に、ぼくらは一度朱子の事務所のある土地へと戻らなくてはならなかった。
そしてそれは、ぼくの故郷でもあるわけだ。
帰りたくない場所。
帰れる場所。
だから、帰ろうと思いたくない場所。
それがぼくにとっての故郷だった。
朱子は車もあるし、ぼくの気持ちなんて分からないんだ。
分かりもしなくせに正しいから、正義の押し売りなんだよ。
「初雪はいつ降ったかね。先週のことだろうね、きっと。天気予報で言っていたもの」
「先週のことだったかな。よく覚えてないよ。もうこの歳になれば、降雪なんかじゃ興奮しないんだよ」
「私は今でも興奮しまくりだよ。悪い?」
「悪くはない。ただ幼い」
「幼いことは悪いことではないか?」
「お前なあ。それ子供の前でも言えるか?」
「子供はカオスに生きる存在である以上微妙なグレーゾーンだから大丈夫だね」
「そういう哲学っぽい言い方、嫌われるぜ?」
「幕堂君は慣れてるんだろう?」
「ぼくはな」
「ならいいや」
「いいってことねえだろ……」
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