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「お前を戒めるための格言だ。ぼくの手作りのね」 「ふふ。私を戒めようとする者の気持ちが分からないけれど、そうかね。幕堂君がそういうのなら、受け取っておこうかな」  外は雨が降っている。  夜の雨は嫌いだ。  寒くて、冷たくて、辛辣なんだ。  夜の雨は、特に。 「あのさあ朱子(あかこ)。いきなり死体を見せつけられたぼくのこと、本当に相棒だと思ってるか?思ってねえだろうなあ」 「思っているよ。思っているからいきなり死体を見せつけたと言えるし、言おうと思っていたのだけどね」 「……どういうこと」 「さあ?それは自分で考えてくれないと困る」 「お前なあ……」  雨が古めかしいトタンの屋根を打ち付け、か細い音が風情を最悪に仕立て上げる。  朱子のにやけた顔は正直張り倒したいくらいに鬱陶しいけれど、今は何よりもあの死体をどうするかだ。 「ぼくは、仕事の依頼主がいるって聞いてここに来たんだけどな」 「私もだ」 「でもお前は死んでるってことを予想してた。そうだな?」 「いけないこと?先見の目があることはそれがどこまで限定的であろうとも羨むべき力だろう?」 「ああ、そうだな。先を見通す力っていうのはすごいよ。探偵みたい。でもな、わかってることを手伝いのぼくにすら明かさないお前の正確は探偵以前に友人に向いてねえ!」 「ちょっと、そんなに褒めないでくれないかね。恥ずかしくて炎上しそうだ」 「恥ずかしがり方が一々過激なんだよお前……」  小赤朱子(こあかあかこ)。十九歳になるぼくの幼馴染だけれど、ぼくとは違ってこいつは高卒のまま就職をしたらしい。  その点ぼくについては地方の国立大学に進学。今年の春から大学生となった次第。  どうしてこんな汚い一軒家の玄関を叩いては吐きそうになっているのかというと、ううん、いまいち説明に困る経緯だ。  まあ、要はだ。  冬休みを利用して、この腐れ縁である幼馴染の仕事を手伝っている、といえばおおよそ間違ってはいない。
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