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「兎に角だ、あの部屋の惨状をどうするんだ?折角参上したはいいけどさ」 「間取り三畳の惨状に参上して激情沸き起こる幕堂君。格好いいだろうね、この言い回しは」 「あんまり上手くないけどな。――ええっと、まずは警察か?」  携帯電話を取り出す。  今流行りのスマホとかいうあれだけれど、実際使いづらい。  ノリで高い買い物はするものじゃねえなあ。 「警察はいい。私の方から口利きしておくのでね」 「ああ?どういうことだ?」 「そういうことさ。このまま警察に通報してみたまえ。第一発見者を疑えとは有名なフレーズだけれど、つまりそうはならないかね?深夜、なんの関係もない家をぶち破ったら老婆が死んでいましたと言って、誰が信じる?」 「お前の口利きがあれば問題ないって?」 「そうなるだろうな。幕堂君の痕跡も丁寧に消してくれるだろう」 「し、死体があるなんて思わねえだろ普通」 「意外だ。私の仕事を普通だなんて思っていたのかね?」 「違う。ぼくが普通だと思っていたのは朱子、お前だよ。そんなお前がこんな仕事してるなんて、思うもんか」  寒い。  身震いがした。  冬にしては気持ち悪いくらい暖かい深夜で、だからこそ雪でなく雨が降っているのだけれど、じゅくじゅくと足元の雪を溶かしていく様は雪の降り積もるそれより不気味で薄気味悪かった。 「ふふ。そんな幕堂君だから、私は君が大好きだよ。今日日、私を普通だなんて言ってくれるのは幕堂君しかいないだろうからね」 「だろうよ。幼稚園の時から付き合いがあるぼくじゃなきゃ、無理だろう」 「無理だろうね。流石。さすが幼馴染だ。持つべきものは三角レンチでもバールでもなく、幼馴染ということだ」 「そこに並べるな、そこに」  生き物と比べろ、せめて。
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