16人が本棚に入れています
本棚に追加
「さっきは危なかったな茉白!ギリギリセーフ!お前来ないんじゃないかって、心配したよ」
「あはは…ごめん」
初めての、科学室での授業。
迷子になった末に何とか滑り込みを果たした俺は、友人の言葉に苦笑した。
科学の武井先生は学校内では"恐怖の先生ベストスリー"に入るという、とにかく恐ろしい先生らしい。
そんな先生を相手に滑り込みセーフ。
なんて、あまり良いものではないのだけど、俺は運が良かった。
そう、一緒に来てくれた人、俺をここまで案内してくれた人が、良かったんだ。
「ねえねえ八沢君!さっきのあの人さ…黒崎先輩だよねっ?」
「え…誰?知ってるの?」
さっきのあの人は、どうやら『黒崎先輩』と言うらしい。クラスメイトの女の子、談。
「知らないの?二年の黒崎宗一先輩!超クールで超イケメンの校内女子人気ナンバー1!!ファンクラブだってあるんだからっ」
「…あ、そ…そうなんだ」
ファンクラブ…そんなものが学校内にあるのか…それにそんな情報をわずか二週間でゲットしている女の子って、凄い。
それ以前に、あの先輩がそんな人だったって事にも、凄いとしか言い様がない。俺は、何だか凄い人に借りを作ってしまったみたいだ…。
「成績優秀、家柄も良し!先生からの受けも良し!!何やらせても一番を取る完璧な人なんだって!超カッコイイ!!」
「うわー…パーフェクト人間。そういう奴って絶対性格悪いぞ!茉白、お前あんまり関わるなよ?」
「え…いや…大丈夫だよ。関わる事もないだろうし」
異性に好かれる人は同性に嫌われるって法則。やっぱりあるんだ。
別にそんな嫌な人ではなさそうだったけど……でも確かに、取っ付きにくさはあったかもしれない。
そう…それはほんの少し前の事。
迷子になった俺は全速力で廊下を走って、走って、そのまま……その、黒崎先輩と正面衝突をした。
いや、勝手に賭けはしたけど!本当に人が居るとは思わなかったんだ!まさか、あのタイミングで、横から人が出てくるなんて…っ
でも、それよりも驚いたのは…
ぶつかった衝撃でお互い見事に転がった後、顔を上げた瞬間、
『……うちで飼ってた犬に、似てる』
って……
初対面の人間に対する第一声がそれ!?犬!?俺って犬に似てるの!?
…あまりの衝撃に、俺は謝る事すら忘れてしまった。しばらく唖然として、思い出したのは科学室を探していた事。
最初のコメントを投稿しよう!