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『あの!!科学室はどこですか!?』
『…ああ、それなら』
交わした会話は、たったそれだけだったと思う。
手を引かれて、結構無理な道を突き進んで、目的地へ辿り着いた。きっと、あれが一年間この学校で生活をしてきた先輩ならではの近道だったんだろう。
でも、科学室に着いた瞬間、ばったりと先生に遭遇…あ、もう死んだ。そう思った。でも
『先生。迷子を連れてきました』
そんな、先輩の言葉で、俺は難を逃れた。思えば、あれが先生受けの良い黒崎先輩だったから、救われたのか……。
結局、先輩に謝るどころか、御礼も言えてない。
でも……
一つの学校内とは言え、この広い校舎で、そんな有名人とまた出会う偶然なんて、そうそうないだろう。
わざわざ会いに行くのも……なんて思ってしまった自分も、情けない。
どうしようかな……
いや、今は授業に集中しよう。武井先生に目をつけられるのは御免だ。
とりあえず、また後で考えよう。また、後で……そのうち
……なんて、思っていたのに。
再会の時は、意外にも早く訪れた。
放課後。
「1年A組、八沢茉白?」
いきなり目の前に現れたその人は、そう言って俺の腕を掴んだ。
「あ…はい。そう、です」
教室に戻り、それぞれ帰りの準備を始めていたクラスメイト達が 、一斉に動きを止めて注目している。
「えっと…黒崎先輩、ですよね?」
恐る恐る問い返してみると、先輩は返事をするわけではなく、ただじっと俺の顔を見つめた。
…穴が開くほど見つめられる、というのは、こういう事だろうか。
「……あの…?」
軽く一分はそのまま一時停止状態で見つめられていたと思う。気まずさを通り越して、とにかく居心地が悪い。
しばらくして、ようやく先輩が動いた。
「用がある」
たった一言の簡単な言葉だったけど、絶対的に有無を言わせない空気を放っていた。
「わ、わかりました…」
教室中の視線が痛い。
目のやり場に困る。
どうして良いものか分からず、俺はもはや言わされるままに返事をしていた。
そして、引きずられるように腕を引かれ、俺はその人、黒崎先輩に連行された。
「可愛い子キター!!!!」
連れて行かれた先で、いきなりの絶叫。あまりの迫力に、俺は思わず後ずさった。
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