第一章・―宣戦布告―

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「またやってるよ。今川も、部長がなびかないのに結構一途だなぁ」  そうぼやくのは、今川の同僚にして、悪友とも呼べる斎藤一(さいとうはじめ)だった。  和音との言い合いに玉砕して戻ってくるなり苦笑されてしまい、ちょっとだけ気持ちが沈んでしまう秀臣である。  典型的チャラ男な秀臣に対して、斎藤は長めの黒い前髪をサイドに流し、ナチュラルにまとめた髪形と、白いシャツにグレーのネクタイ、それに同じ色の上下ツーピースを合わせた服装が爽やかな印象をかもし出す、いわゆる一つの爽やか系イケメンというヤツだ。  真面目な勤務態度からも女性の同僚からの評判も良く、なかなかどうしてモテている。 「一は部長の良さが分かってないんだな」  そんな斎藤には勝てないなぁと内心で思う秀臣だったが、人差し指を顔の前で揺らすと意味ありげに返す。 「あんなに素敵な、宝石のように輝く人はこの世に二人といないんだぞ」 「力説しているところに済まないが。俺にはお前の日本語が理解出来ん」  まるで女性を熱心に口説いているような台詞に、つき合いきれなかった斎藤はすっかり呆れ返っている。
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