乾いた日々

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門が開ききり、敷地に一歩足を踏み入れるのと同時に建物の扉が開いて、中から使用人が一人出てきた。看守だ。 後方で門が閉まる音が耳に入る中、石畳の上を歩き、左右にある芝生・木々・花壇・ビニールハウスが広がる庭を通り過ぎる。噴水を通り過ぎ、送迎の車が止まるロータリーを横断したところで、ようやく玄関に辿り着く。 「お帰りなさいませ、拓人様。」 扉を押さえていた女性の使用人が頭を下げた。 「うん。」 その使用人に鞄と制服の上着を預け、自宅に入る。 「坊ちゃん、お帰りなさいませ。今日はお寒うございますな。」 毛足の長い絨毯を踏みしめながら進んでいると、玄関を入ってすぐ見える中央階段の元から聞きなれた声が掛けられた。 「藤崎、何度言ったら『坊ちゃん』という呼び方と、まとわり付くような猫声を止められるのか。」 精一杯皮肉を込めたつもりだが、声の発生源であるスーツを着て髭を蓄えた老人は笑顔を崩さなかった。
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