第1章

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あの二人から解放されて昼ご飯を食べ終わる頃には昼休憩は残り半分となっていた。 ……だからと言って特にする事は無いんだけどね。 いつもなら気分転換を兼ねて校舎をのんびりと歩くんだけど、生憎今日はそんな気分じゃないし時間も微妙。 おとなしく自分の席で短いお昼寝でもしておこう。 昼休憩の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと同時に沈んでいた意識が覚醒する。 ……うん、ただ普通に起きただけ。 それはともかく腕を枕にして寝ていたせいで若干腕が痺れたよ。 と言っても授業を受けるのには支障が無いから気にしない。 やっぱり学校に来ているからにはしっかり勉強しないとね。 遊んだりするのは家に帰ってからでも十分だし。 「ほらさっさと席に着きなさい。 ―――それでは午後の授業を始めます」 いつの間にか教壇へと現れた教師の一言で、あちこちで騒いでいたクラスメイトが急いで自分達の席に座る。 こうして始まる午後の授業。 昼ご飯を食べて満腹になった事による眠気に負けて睡眠に入る何人かのクラスメイト。 そんな生徒達の頭を教科書で軽く叩いて周る教師。 突然の衝撃に驚き、居眠りしていた生徒が飛び起きる度に巻き起こるクラスメイトの笑い声。 これまで何ら変わりなく続いてきた日常的な授業の風景。 ―――あぁ、ボクもあんな風にクラスメイトの輪の中に入って笑ってみたいな――― それなのにボクは未だにこの風景の中に入り込めていない。 『琥珀ちゃん』と呼ばれ始めてからは確かに『チビクラ』と呼ばれていた頃よりもクラスメイトと話すようにはなった。 ちょっとした切っ掛けで縮まったクラスメイト達との距離。 だけどボクはそれよりも先に踏み込む事が出来ずにいる。 理由は単純、縮まった距離が再び離れる事が怖いから。 目の前で行われているような日常的な風景に自分も混ざりたいとは思いつつも、そこに混ざるための一歩を踏み出す勇気の無いボク。 情けないって事はボク自身わかってる、加えてそんな自分を変えたいとも思ってる。 それでもボクはその一歩を踏み出す事が出来ない。 ボクが近づいた分だけ皆が離れていくんじゃないのか。 何かの拍子に昔のように戻ってしまうのではないのか。 いざ踏み出そうとした時にいつもその事が頭をよぎり、そうなる事が怖くていつも断念してしまう。 ……本当、たった一歩踏み出すだけの勇気すら無いボクが――――心底大嫌いだ……
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