9.誕生日と卒業

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卒業パーティーが終わっても中学生はまだ盛り上がりが冷めていなかったけれど、小6のメンバーはそそくさと帰ってしまった。 私は帰ろうとするミアとハルナを引き止めようとしたが、お構いなしに出て行ってしまう。 もうちょっと余韻に浸ってたいのになぁ…。 先生たちと喋りたいし…。 でもひとりだけ中学生の中に入っていく勇気もない。 仕方ない、帰ろう…。 と思って塾を出ようとしたそのときだった。 「蒼井!」 振り返ると、エンドゥーがいた。 その日のエンドゥーの服装は、以前「似合うね」と褒めたらお気に入りだと言っていた、深いワインレッドのワイシャツ。 腰の鍵たちがシャランと音を立てる。 ああ、やっぱり先生はワインレッドが似合うな。 「どうしたの?」 「歌ってあげられなくてごめんな。ギターは持ってきてたんだけどさ」 「えっ…」 まさか本当に、歌ってくれるつもりだったなんて。 ううん、それが先生だ。 先生はいつだって誠実だった。 約束は必ず守る人だもんね。 「その代わりと言ったらアレだけど、これ」 そう言って薄い箱を差し出す先生。 許可をもらって開けてみると、夏期講習のときに撮った写真が入った写真立てだった。 写真と言ってもクラスで撮ったわけではなく、エンドゥーのイタズラ心で大きめのダンボールに「小6受験クラス 猛特訓中!」とチョークで書いた看板チックなものの写真。 先生は心底申し訳なさそうな顔をしている。 そんな顔しないで、先生。 気持ちだけで十分なんだよ。 「本当にいいの?ありがとう、先生!嬉しい♪」 出来るだけ笑顔で答えたつもり。 先生にそんな悲しい顔してほしくないもん。 私がお礼を言ったあとの先生の表情はよく覚えていない。 もしかしたら、直視しづらくてちゃんと見ていなかったかもしれない。 今思えば、先生が歌わなかったのは、野川のためだったんだと思う。 野川は私と同じくらい先生のことを気に入っていた。 先生を真似て髪を伸ばしてたくらい。 真っ直ぐな先生のことだ。 小6受験クラスにとってだけでなく、先生にとってもまた、野川の結果は悔しいものだったに違いない。
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