8.直前、そして本番

8/16
前へ
/118ページ
次へ
―――エンドゥーの最後の授業の日。 ミアを除けば、小6受験クラスの全員が揃っていた。 授業を普段より早く切り上げた先生は、こんな話を最後にしてくれた。 「ドーナツの穴ってさ、そこには何があるんだと思う?」 先生の真面目な話は深い。 私たちは全員、真剣に耳を傾けた。 「ドーナツの穴ってさ、“そこ”には“何もない”んだよね。周りの生地の部分があるから、“穴”が存在するんだ」 「存在が見えないもの、例えば、友情とか信頼関係とか、努力とか。目に見えないから、本当に“ある”のか、不安になることもあると思う」 「…………」 先生は身振り手振りを交えて、小6にもわかるように噛み砕いて話してくれる。 「でも、そういうときは思い出してほしい、輪っかの存在を。輪っかは自分自身と周りの人たちが作ってるんだ。自分が自分の輪っかを作ることもあれば、誰かの輪っかの一部になってることもある」 「輪っかがある限り、穴はなくならないから。試験会場とかで不安になったら、この話、思い出してみてね」
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加