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やっと事務所が見えてきた。
あれから、ごねるオヤジを実家で下ろしてオカンに任せて急いで戻って来たのだが、既に時間は10時半だ。
どうせあのボンクラ助手はまだ来てないだろうが。
事務所のドアに鍵を刺して回すと、ガチャリという音がしない。
どうやら珍しく、ちゃんと時間通りに来ているようであった。
ノブを回してドアを開けると、中から小倉まさみが騒々しく出迎えてくれた。
頭に付いた黒く丸い耳がひらひらと動いている。
「シュウちゃん大変だよ大変!」
このワンダーランドの住人が騒ぐような事など、どうせろくでもない。
「どうした? 人生には慌てるに足るような事などいくつもないぞ。せいぜい知人の頭にネズミの耳が生えていた時と酔っぱらった次の日に樹海でパンツ一枚で目が覚めた時ぐらいのもんだ」
「仕事の依頼が来てるよ!?」
「なんだとぅ!?」
とうとう俺の見せ場が来たのだ。
俺は華麗にデスクを飛び越え、パソコンのメール画面を開く。
そのワンシーンをフィルムに残せば、誰もがハリウッドのアクション映画だと思うに違いない。
「手紙……」
まさみを見ると、手に持った手紙をひらひらとさせている。
……。
俺は華麗にデスクの椅子を引き、腰かけて足を組んだ。
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