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窓ガラスの向こうには暗雲たる雲が広がり、本来ならば青いはずの空がグレーに染められている。
時折、遠くの方で稲妻が雲間に顔を覗かせていた。
まだ、猫が喉を鳴らす程度の音しか聴こえてはこないが、やがてはこの辺りにも稲妻がやってくるであろう事は想像に難くない。
テレビに映し出されているニュースでは、女性ニュースキャスターが風に長い髪を煽られながら津波や落雷に注意を呼びかけている。
俺はデスクの椅子に腰掛けて肺に溜まった煙を大きく吐き出すと、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
こんな天気の日はあまり好きではない。
俺のトレードマークである黒いスーツに赤いシャツも宙に浮かぶ湿気を吸い込み、心なしか元気がないような気がしてくるからだ。
そんな不気味な天気の日であった。
アイツが我が松浦探偵事務所のドアを叩いたのは。
灰皿をどかし、椅子に深く背中を預けてデスクに足を投げ出すと、玄関から物音が聴こえてきた。
「何か音がしなかったか?」
俺が足をデスクに投げ出した姿勢のまま助手の小倉まさみに目を向けると、まさみはデスクに座って手鏡で頭に付けたネズミの耳の位置を調整している。
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