55人が本棚に入れています
本棚に追加
「見えてきたぞ」
三十分ほど車を走らせると、闇の錬金術師が雨の流れる窓越しに建物の影らしき物を指差した。
俺はハンドルを切りながら、目を凝らしてそれを見た。
「え……? アレがそうか?」
「な? 本当に豪邸だろ?」
「いや、豪邸って言うか……アレもう城じゃね?」
豪雨と時折落ちる稲妻のライトアップのお陰でドラキュラ城みたいになってますけど。
まさか依頼主って牙とか生えてる方じゃないですよね?
トマトジュース片手にマント羽織ってたりしないですよね?
亡くなった旦那さんて地下室で黒い箱に眠らされたりしてないですよね!?
いや、そんなワケないだろ。
美人の未亡人だしな。
まあ……いっそ吸血鬼でもアリか?
「どうした? やたら複雑な顔して」
「いや、なんでもない」
丘を上って城へと到着すると、自動で門が開かれた。
巨大な玄関の前に車を停めると、傘をさして外に出る。
豪雨が容赦無く傘に叩き付けられ、玄関の軒下に入るまでのたった数歩で足元がびしょ濡れになった。
「参ったなこりゃ」
俺がブランド物のスーツについた雨を払って傘をたたむと、ものものしい両開きの扉が目の前にあった。
その扉を闇の錬金術師がゆっくりと開く。
期待と不安をごくりと喉を鳴らして呑み込み、俺はそれを見守る。
最初のコメントを投稿しよう!