5日目『グラスにまつわるエトセトラ』

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「お待ちしていましたわ。雨の中ご苦労様」 開ききっていない扉越しに女性の声が聴こえてきた。 透明感のある、天使の囀ずりのような良い声である。 これはかなり期待できそうだ。 きっと天使のような女性に違いない。 「シュウちゃん」 闇の錬金術師に呼ばれて俺も扉の中へと入った。 「松浦探偵事務所所長の松浦秀作で……」 思わず言葉が途中で止まる。 目の前にはゴスロリのような服を身につけた、かの有名な女装家を彷彿とさせる巨体の女が立っていたのだ。 アレ? 美人は? てかさっきの天使の声はどこから出てたんだ? そのブラックホールのような丸い鼻の穴か? 天使ってより、完全にロールプレイングゲームのラスボスじゃねぇか! 「な? 美人だろ?」 「あ……ああ……」 俺は何も言い返せず、頷く事しかできなかった。 「やだー! 照れるじゃない!」 ラスボスが頬を赤らめて闇の錬金術師の肩を軽く叩くと、ズドンと重い音がする。 やべぇ…… やべぇよオイ! 攻撃力ハンパねぇよ! こんな丸腰でラスボスと戦えるのか? 心もとないがこの傘を勇者の剣か賢者の杖だと思って心の支えにするしかねぇ! てかほとんど初期装備のひのきの棒だけどな…… 「傘をお預かりいたしますわ」 そう言ってラスボスがニッコリと笑みを浮かべた。 ひのきの棒没収ーー!!
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