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ガイダンス開始間際、廊下からあの女の子の声が聞こえた気がした。
俺は速まる心臓の音を感じながら、入口に目を向けた。
楽しそうに友達達と話すあの女の子の声が段々大きくなり、入口にあの女の子が現れた。
俺は一目だけ笑顔を見ると、ガイダンス資料に視線を落とした。
それで十分だった。
小さく息を吐き、瞬きの度にその笑顔を思い浮かべた。
「かおり、落ちたよ」
ふと聞こえたその声に俺はもう一度、女の子達を見た。
教室の中央辺りの席に座ろうとしているあの女の子に、友達がハンドタオルを渡していた。
「ありがとう」
あの女の子は笑顔でそれを受け取った。
かおり、俺は何度も心の中で繰り返した。
ガイダンスが終わると、俺は足早に教室を出た。
1年の時に受講した必修科目で、課題の提出の有無を名簿に張り出している教授がいたことを思い出したのだ。
個人情報の管理にうるさいこのご時世に時代遅れだと思ったが、今は藁にもすがる気持ちでその教授室まで急いだ。
ずぼらなイメージの教授なら、まだ教授室の前の壁に掲示している可能性があると思った。
現に、去年は5月になっても前の学年の名簿が剥がされていなかった。
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