出会い

7/23
前へ
/50ページ
次へ
階段を1段飛ばしながら上り、走る事はおろか息を切らす事さえ久しぶりだと気がついた。 真っ直ぐ教授室の前まで行くと、祈るような気持ちで呼吸を整えた。 ゆっくり視線を壁に向けると、やはりまだ名簿は掲示してあった。 1人1人心の中で名前を読み上げる。 「…佐伯香織」 俺は佐伯香織の名前を見つけ、もう一度心の中で読み上げた。 「佐伯香織」 かおりと言う名前が珍しいものではないと気づき、名簿の最後まで名前を読み上げてみた。 「佐伯香織」 自分にだけ聞こえる小さな声でもう一度名前を呼んだ。 かおりと言う名前は佐伯香織しかいなかった。 「佐伯香織」 もう一度名前を呼ぶと、俺はゆっくりと家に帰るために歩きだした。 この瞬間が俺と佐伯香織の出会いだった。 俺は帰り道、何度も佐伯香織の名前を心の中で呼んだ。 顔と声と名前を知った俺は、不思議な程の満足感に満たされていた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加