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階段を1段飛ばしながら上り、走る事はおろか息を切らす事さえ久しぶりだと気がついた。
真っ直ぐ教授室の前まで行くと、祈るような気持ちで呼吸を整えた。
ゆっくり視線を壁に向けると、やはりまだ名簿は掲示してあった。
1人1人心の中で名前を読み上げる。
「…佐伯香織」
俺は佐伯香織の名前を見つけ、もう一度心の中で読み上げた。
「佐伯香織」
かおりと言う名前が珍しいものではないと気づき、名簿の最後まで名前を読み上げてみた。
「佐伯香織」
自分にだけ聞こえる小さな声でもう一度名前を呼んだ。
かおりと言う名前は佐伯香織しかいなかった。
「佐伯香織」
もう一度名前を呼ぶと、俺はゆっくりと家に帰るために歩きだした。
この瞬間が俺と佐伯香織の出会いだった。
俺は帰り道、何度も佐伯香織の名前を心の中で呼んだ。
顔と声と名前を知った俺は、不思議な程の満足感に満たされていた。
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