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俺は入口に釘付けになった。
少し息を切らせて入って来たのは、佐伯香織だった。
俺はほっとして小さくため息をついた。
いつもの佐伯香織は教室の端を通って席に向かうが、今日は急いでいるからか最短距離で席に向かうらしく俺の席に向かって足早に歩き出した。
まるでスローモーションのように、佐伯香織が俺に近づいて来るのを感じた。
俺は緊張が顔に出ないように、少し俯いた。
佐伯香織は急いでいたのか、俺の横を通り過ぎる瞬間につまづいた。
握り締められていた佐伯香織の携帯電話が、俺の足元に転がってきた。
俺は予想もしていなかった出来事に体が固まった。
このまま無反応ではいけないとわかっているが、上手に体は動かなかった。
誰にもわからないように小さく深呼吸をして、覚悟を決めた俺は佐伯香織の携帯電話を拾った。
まるで関節一つ一つがバラバラに動かされている人形のように、不自然なぎこちない動作で拾った携帯電話を佐伯香織に渡した。
「ありがとう。」
佐伯香織はつまづいたことに照れているのか、少し照れ臭そうに微笑んで俺から携帯電話を受け取った。
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