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「信じられない」
「なんで?」
友達達の涙声で聞き取りにくい会話は、意味のわからない事を繰り返すばかりで俺には理解できなかった。
パンを食べ終え、学食の賑やかな雰囲気に耐え切れなくなった俺は席を立とうとした。
その時、視線の端にこちらに走ってくる男が見えた。
その男が佐伯香織達と仲良く話しているところを何度も見た事があった。
俺はもう1度席に座り直した。
「おい、本当なのか?」
携帯を握りしめて、走ってきた男は学食に響くほどの大きな声で言った。
その言葉に頷きながら、佐伯香織の友達達の泣き声は大きくなった。
「香織が自殺って本当なのか?」
男は呟くような小さな声でそう言った。
俺ははっきり聞こえたその言葉の意味が理解できず、何度も頭の中で繰り返した。
佐伯香織が自殺…言葉の意味が理解できた頃には、俺の耳には何も聞こえてこなかった。
賑やかな学食の音も、佐伯香織の友達達の泣き声さえも聞こえなかった。
ただ、自分の心臓の音だけが響いていた。
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