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「ワシの話を信じてくれれば、家督をそなたに譲る!」
「断る。俺は貴族の家督にも、香辛料にも興味はない。」
火縄銃を構える仲間が嗤いながらジョアンに尋ねた。
「このオッサンうぜえから、撃ち抜いてもいいか?」
好きにしろ、とジョアンが合図する前に、貴族の男は必死に叫んだ。
「はん! 所詮は大海に飛び込む勇気のないカエルのなり損ね共か!」
船の至る所から火縄銃が貴族の男を狙う。もちろんジョアンも、再び貴族の男の首元へ刃を突き付けた。
「何だと?」
爆発寸前の若者たちの怒りの中で、貴族の男は言い切った。
「南方航路の話は、神々と教会だけの秘密じゃ。教会の話によれば、後五十年以上先まで発見されない事になっておる。すでに神を裏切ったワシに怖いものなぞない。共に、教会と神を出し抜いて、地獄で財宝を掴まんか?」
時はまだ十五世紀前半。
貴族の男はシチリアの貿易商ジャコモ=シモンだと名乗った。
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