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「あの見張りは厄介だ!」
敵船からそんな叫びが聞こえると、次々と銃弾がユーリの背中に突き刺さった。
背中から血しぶきをあげても、ユーリはトマを守り続けた。
「お願い! 僕と一緒に逃げて!」
いくらトマが泣き叫んでも、ユーリは益々トマを強く抱きしめた。
「トマ。ここで俺が死んだら、奴らは油断する。だから……このままで、いさせてくれ。」
「ヤダ! ユーリがいなきゃ、ヤダ!」
泣き叫ぶトマに、ユーリは信じられない位、優しい笑顔で告げた。
「俺はな、おまえの命と引き換えに、生きる事を許されたんだ。……だから、今度は、俺の命と引き換えに、おまえを守りたいんだよ。」
「ユーリ……兄ちゃん。」
トマも勇者の覚悟を読み取り、最高の尊敬を込めて囁いた。
「ありがとう。トマ ……最愛の弟。」
ユーリの鼓動が聞こえなくなる前に、トマは密かに梯子を降りた。
敵船からは見張りが力尽きて倒れたように見えたから、どよめく歓声が聞こえた。
(兄ちゃんの命、無駄にはしない!)
完全に油断した敵船からの歓声を聞きながら、トマはゆっくりと梯子を降り、ジョアンとジャコモ船長にユーリの死を伝えた。
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