嫁ぐ日

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那古野城は信長に任され、父の信秀とその家族たちは、古渡の城に居住していた。 親戚、家臣一同、那古野城の大広間で花嫁を待ちわびていた。 帰蝶の輿が城に到着すると、休む間もなく、広間へ通された。 朝からずっと輿に揺られ、もうすでに日は傾いてきている。 それだけに帰蝶は疲労し尽くしていた。 加えて、実家を出た時からずっと神経を研ぎ澄まし、精神的にもクタクタだった。 とに角休みたかったが、それが適わない。 (落ち着くのよ。 わたくしは美濃の斎藤の家を背に負っている。 ここで少しでも醜態を晒せば、それはそのまま父の恥となる。) 「美濃、稲葉山城守利政が娘、帰蝶にござりまする。 不束者にござりまするが、お父上さま、お母上さま、皆々さま方にいろいろ教えていただきながら、織田家の嫁として務めて参りとう存じまする。 よろしくお願い申し上げまする。」 どこか冷めたような感情を押し包みながら、丁寧に信秀と御前の土田御前へと手をついた。 「面を上げられよ。 これからはここがそなたの家じゃ。 堅苦しい挨拶など無用じゃ。 くつろげ、くつろげ。 ハッハッハッ。 ご覧のとおり、姫を肝心の新郎が出迎え出来ておらぬ。 代わりに儂が詫びる。 許されよ」 豪快に笑ってみせる信秀に、帰蝶は緊張の糸をほぐし、笑みを浮かべ面を上げた。
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