1479人が本棚に入れています
本棚に追加
/1067ページ
「帰蝶、申せ!」
「……あまりにもわたくしへのご寵愛が強過ぎて、いつの日か飽きられるのでは……」
潤んだ瞳で見上げられ、信長はひゅっと息を飲んだ。
「……飽きぬから、こうして求めておるのではないか」
「……はい」
小さく頷いた帰蝶を胸の中に引きこむと、
「そなたはいつまでも若々しく、美しい。
愛おしいと思う気持ちは年月を経るにつれ、より一層強くなる。
そなたは不思議なおなごじゃ…」
「のぶさま…」
甘えたように胸に頬を寄せて来る帰蝶を、わざとらしい咳払いと共にそっと引き離し、
「話があると言うておったな。
このままでは昨夜の二の舞いじゃ!」
襟足まで赤く染めた信長が、慌てて褥の上に座り直すと、帰蝶も恥らうように着物を正し、懐から一通の文を取り出した。
表書きには流れるような美しい文字で、“帰蝶どの”と記されてあった。
明らかな男の手蹟。
自分しか呼んでいない帰蝶という名で呼び合う仲なのか、と露骨に嫌な顔をした。
「中を…」
いつまでも表書きを睨みつけていたが、乱暴に取り去ると、その表書きを握り潰した。
最初のコメントを投稿しよう!