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そんな観察者があったとも知らず、輿はさらに進み、国境の川へ着くと、織田家の家臣たちが出迎えた。
「某は織田上総介信長が家臣、平手中務政秀と申す。」
「某は斎藤山城守道三が家臣、堀田道空。
我が主君の姫君、帰蝶さまお輿渡しの任、まかされ候。
これより先、織田家の方々にこの任をお引継ぎ申したい」
輿の先では白々しい形式ばった、輿渡しの儀式が進んでいた。
これより先、美濃の者たちは大半が引き上げることになっていた。
この時、帰蝶はより強く、美濃と決別するのだと痛感していた。
「姫様、ここでお別れにござりまする。
くれぐれもお身体をお大事に…」
「堀田どの、ご苦労でした。
父上によろしくお伝えくだされ。
帰蝶は無事、尾張に着きました、と。
それから、母上にあまりご心配なさらぬように…と」
「しかと承りましてござりまする。
各務野どの、姫君をくれぐれも…」
「しかと」
各務野の決意のこもった声を聞くと、帰蝶に付き添ってきた道空以下80名あまりは、帰蝶が決して戻ることの許されない道を戻っていった。
「姫君、お疲れにござりましょうが、もうしばらくご辛抱を。
那古野の城にはすでに古渡城より、信長さまのご両親さまもお越しになられて、姫君のご到着をお待ちにござる」
平手の帰蝶を労わる言葉を聞いても、帰蝶はたまらなく心細かった。
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