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「驚かれましたか?」
帰蝶を振り返らず、前を向いて歩きながら、政秀がぽつりとつぶやいた。
「いずれ、姫君もお知りになる時がございましょう。
されど、くれぐれも信長さまをよろしくお願いつかまつる」
どこまでも真剣な政秀の語調は、信長への愛情に溢れていた。
「失礼つかまつる」
縁の先から、息を切った若武者が控えた。
「いかがした」
「はっ、それが…」
言いにくそうな若武者の雰囲気で全てを察したのか、政秀は慌てて庭に下り、帰蝶から遠ざかるようにして、なにやらこそこそと話していた。
「いかがされたのでしょう?」
「きっと婿殿が行方をくらましてしまわれたのでしょう。
とても大人しく祝言を挙げられるようなお方とは思えませぬ」
「まあ!
笑おうている場合ではござりませぬ。
そのような無礼を楽しげに!」
「用意周到に待ち構えられているより、余程気が楽と思いまするが?」
「また姫様の信長どの贔屓が始まられた」
呆れ顔で言う各務野に帰蝶は弾けたように笑った。
「まあ、ほんと!
これが贔屓でなく、本当になれば良いわね」
どこまでも楽しげで、明るい姫であった。
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