祝言

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祝言まで少し休めた帰蝶は、各務野と侍女に伴われながら、ところどころに篝火が焚かれている廊下を歩んでいた。 純白の小袖に幸菱の打掛を纏った帰蝶は、絵から抜け出たような花嫁ぶりだった。 夜の冷たい空気が帰蝶の動悸に拍車をかけていた。 微かに上気した頬は白い顔を彩り、真っ赤な唇とともに帰蝶をより一層美しく見せていた。 大広間ではすでに婚儀に参列する者たちが席についていた。 が、やはり新郎の席は空だった。 「帰蝶さま、お成りにござります」 小姓がそう告げたあと、姿を現した帰蝶を見て、一同騒然となった。 各務野は袖で涙を隠しつつ、道三と小見の方がこの姿をご覧になられたなら、どんなに喜ばれたであろうと思うと、胸が熱くなった。 帰蝶は用意されていた席に座した。 そして、空の席をちらりと盗み見して、内心ほくそ笑んだ。 やはり、信長という男は大人しく蝮の娘を嫁に貰うつもりはないらしい。 ならば、わたくしも大人しく嫁にならぬまでの事。 「平手、三郎はいかがした!」 「はっ、それが……」 「また行方をくらましたか…」 呆れ声の信秀に、周りは嘲笑めいた笑いを洩らした。
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