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懐古
私は今、病臥の中にある。
何をする気も興らず、かといってのんびりしているわけにもいかず。焦りだけが、とんとんと募っていく。
確か……英国ではこの病をこう呼んでいた。
"slump"―――物書きをしていると、1度は訪れると聞く厄介極まりない病。迫る締め切り、遠退く原案。万年筆を握っては置き握っては置きを繰り返し………私はやがて原稿を放り投げ、畳に仰向けに寝転んだ。宙に舞った数多の白紙の原稿が、枯れ木のような天井に近寄り、やがて私を埋め尽くした。
舌打ちをしてごろりと寝返りをうてば、縁から貧相な庭が見える。先日からの雨で泥にまみれた小池に蓮の花が浮かんでいた。
これを見ると、私はいつもあの男を思い出す。最後に会ったのは、何時だっただろうか。私は再び枯れ木を仰ぎ、懐古に耽ることにした。
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