懐古

4/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
……出版社?私は首をかしげながら立ち上がり、戸を開けようと歩き出し掛け――彼に袖を捕まった。 「正岡?」 訝んで見下ろせば、人差し指で言葉を止められる。 「いいんだ。放っておいてくれ」 無声音のその言葉に、さらに訝りながら私も同じ様に声を潜めた。 「何故?出版社の人間だろ?」 「うむ……」 渋っている間に戸の向こう側から気配が消えた。暫く待って薄く戸を開け、私は彼を振り向いた。 「帰ったらしいぞ」 彼が盛大な溜め息と共に仰向けに倒れた。その隣に腰を下ろしながら説明を求めてやる。畳の上から苦笑混じりの声が答えた。 「俺に俳句を雑誌で連載しないかと誘ってくるのさ」 「悪い話じゃないじゃないか」 「いや、悪い話さ」 彼は、ふんと鼻を鳴らした。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!