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……出版社?私は首をかしげながら立ち上がり、戸を開けようと歩き出し掛け――彼に袖を捕まった。
「正岡?」
訝んで見下ろせば、人差し指で言葉を止められる。
「いいんだ。放っておいてくれ」
無声音のその言葉に、さらに訝りながら私も同じ様に声を潜めた。
「何故?出版社の人間だろ?」
「うむ……」
渋っている間に戸の向こう側から気配が消えた。暫く待って薄く戸を開け、私は彼を振り向いた。
「帰ったらしいぞ」
彼が盛大な溜め息と共に仰向けに倒れた。その隣に腰を下ろしながら説明を求めてやる。畳の上から苦笑混じりの声が答えた。
「俺に俳句を雑誌で連載しないかと誘ってくるのさ」
「悪い話じゃないじゃないか」
「いや、悪い話さ」
彼は、ふんと鼻を鳴らした。
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