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同姓愛と嗜虐思考の出会い。
「私を罵りながら、殴って貰えませんか?」
志穂は男ならば思わず見とれてしまいそうな、柔和な微笑みを浮かべたまま言った。
あまりに唐突と言うか、間抜けと言うか、とにかく理解不能な御願いに僕は思わず思考が停止してしまった。不覚にも阿呆のように大きく口を開け、志穂を見詰めていた。
数秒、いや体感的には1時間は経ったと思う程の間、まるで時が止まったかのように長い沈黙を置いてから僕は深く深呼吸をする。
落ち着け。たかが女ごときにペースを乱されるな。心の中で自分に囁きながら、いつもの女を魅了する爽やかスマイルをなんとか作り、重たい唇を開く。とにかく何か言い返してやりたかったのだ。
「黙って仕事しろよ。本当に使えない駄女子め」
それを言い終えた瞬間、僕は慌てて自分の口を手で塞いだ。
……言ってしまった。何故か、無意識に、無自覚に、無神経に、罵りの言葉が口から飛び出てしまった。しかも普段なら人前では決して見せないような乱暴な言葉使いで、だ。
まあ、志穂の御願い通りに殴らなかっただけ、幾分かマシだとは思うのだが。
しかし本当に、この女子にはペースを乱されっぱなしだ。やはり居残りなどするべきではなかったのだ。
僕は志穂の表情を直視出来ずに顔を背け、窓の外を見た。
そして、何故このような成り行きになってしまったのか、反省を始めた。
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