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道理で合点がいった。
元より弥市にしては出来過ぎだと疑えたし、あの山崎って奴には他とは違う異質さを感じていたのだから。
ただ『厄介者を追い払う』って読みは外れてたみたいだけど。
曲がりなりにも相反する立場であるのに、雪を逃がす為だけに隠し通路を教え手引きをした。
この事が漏洩すると自分の身が危うくなるのも承知の上で。
それだけ雪に思い入れがあるのか…
その感情が何なのか、今は考えたくもない。
…やっと取り戻せたんだ…僕の手の中に…
雪の乱れた髪をそっと撫でると、少し唸って寝返りを打つ。
しかめた眉は緩やかに元に戻っていった。
「そう…とりあえず奴の気まぐれに助けられた訳だね。でも何故君に教えて来たの?」
「あー…はい、それは…」
弥市は気まずそうに口を覆って、薄っすら頬を染める。
「…バレたみたいなんですよねぇ…」
「何が?」
「俺が昼間…妹の振りして様子を探りに行ってたのを、です。」
「どうしてそうなったの?声色も違うし覆面で顔隠してたハズでしょ。」
「いやーそれがその…あの爆煙の中で覆面剥ぎ取られちゃいまして……しかも昼間使った偽名、耳元で色っぽく…あ、いえ、しっかり呼ばれましたし…もう誤魔化す余裕も無くて。」
「……呆れたね。君も奴も、とんだ馬鹿ばかりだ。」
油断してうっかり顔がバレた弥市は万死に値するけど、そこまで裏付けをとって肩入れするあの男の思考も相当イカれてる。
そしてそれは、やっと帰って来た馬鹿牛達からも語られる事となった。
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