4469人が本棚に入れています
本棚に追加
「仕事変えるくらいなら、僕が身請けしてあげる。」
眼が笑ってないまま、言う台詞じゃないよ…
「私はここに売られた訳じゃないからね?それに身請けって店の丸儲けですけどっ!」
「あ、馬鹿なのに知ってたんだ。残念。」
舌をぺろっと出してお茶目だけど、凄く意地悪な顔だ。
「だいたいキミもさ、僕達と働けば今の何倍も金子が手に入るのに、なんで断るの?」
「真っ当な仕事がしたいからです。」
ぐっと睨むと、
「真っ当ねぇ。遊郭が?」
くっくっと喉を鳴らして笑った。
「もぅ、ほっといてもらえませんか。」
「いやだね。」
ーーーヒュン!と。
空を斬る音がして咄嗟に右手の中指と人差し指で、飛んできた鋭利なものを眼の前でピタッと止める。
「お見事。」
「あぶなっ…毎回やめてもらえませんかね。一応顔は商売道具なんで。」
挟んだものは爪楊枝一本。
それを先生の御膳に置いて戻した。
「その腕に金払うって言ってるのに。宝の持ち腐れってのは、キミの事を言うんだよ?お馬鹿さん。」
「この特技がお金になるとしても私はごめんです。いつ命を落としても不思議はない。私には養わなくてはならない家族がいるんです。私が死んでしまったら家族も死んでしまうから嫌ですって、何度もお話ししたはずですが?」
先生にいくら馬鹿にされても、これだけは譲れない。
「家族ね。三太郎は任務中に死んだんだよね?母は病弱で、弟はまだ八つ。そして佐和家の技を伝授された直系は…雪乃、キミひとりだ。」
弟の歳まで当てられて、正直びっくりした。
弟は京の町中にまで連れてきた事がないのに。
「…細かく調べてますね。もしかして以前弟に道を尋ねたのは、先生でしたか。」
先生は胡座をかいた足に片肘のせ、さらにその手に顎をのせ頬杖をつくと、にやりと笑った。
、
最初のコメントを投稿しよう!