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僕は、顔を青白くさせ今にも呼吸困難になりそうな舞を思わず抱きしめた。
「辛い事思い出させちゃってごめん…。もう聞かないから。」
正直言わせてもらうと僕がもう聞くに堪えないという方が正しかったかもしれない。
だけど、こんな状態の舞にこれ以上無理はさせられなかった。
「ありがとう、もう大丈夫だから…。」
「でも…。」
そんな僕の言葉は舞の強いまなざしによってかき消されてしまった。
「私、俊輔には最後まで聞いてほしいの。」
そう言われてしまうと僕はもう何も言えない。
彼女の言葉には、僕を従わせてしまう何かがあった。
「それからね…。」
「それから、私はお父さんに全てを聞いた。私の身代わりになってお母さんが死んだこと、そのショックで私はそのまま気を失い病院に運ばれたこと。事件の一部始終を聞いたわ。」
「お父さん自身は話すつもりはなかったみたいだけど、私が無理やり聞き出したの。」
「だって、子供だからって理由で仲間外れにされたくなかったから。」
それを僕は舞が話し終わるまで、黙って聞いていた。
聞いているうちに、僕は不謹慎ながらも彼女に強い憧れを抱くようになっていた。
僕が彼女と同じ立場だったら、果たしてここまで強くあれるだろうか。
いや、違う。
彼女だって最初はきっと、【自分のせいだ…】って何度も自分を責めたに違いない。
だけど彼女は、それを乗り越えて今の東宮舞となったのだろう。
僕はなんだか自分が恥ずかしくなった。
舞…、君に比べたら僕はなんてちっぽけなことで悩んでいたんだろうね。
君は僕のことなんて全然知らないんだろうけど、それでも僕1人の心を溶かすには充分だったんだ。
「ありがとう…舞。」
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