プロローグ

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引っ越し自体に何ら不満はなかったが、 唯一、6歳から通っていた小学校を転校しなければならないということには、 子供ながらに無駄な抵抗を色々したものだ。 転勤族だった家の両親だが、僕が小学校に入学してからは珍しく転勤が落ち着いていたため、 ここまで4年間転校をせずに済んだだけでも奇跡に近いものだったのだろうが、 そんなことを知らない子供の僕は、 毎日毎日泣き叫んでは両親を困らせてばかりいた。 だけど、どこかではこればかりはどうにもならないと冷静に判断している僕がいたのも確かで、 転校の日には不思議とあれほど出ていた涙は一滴も出なかった。 「また会えるよ。」 などとたくさんの人に言われた気休めにも素っ気なく応じていた。 だが友達からもらったたくさんの手紙や花束は素直に嬉しかった。 もうみんなと会うことがないだろうというのは心のどこかで分かっていた。 だからこそ別れが辛くないようにその日はずっと笑っていた。
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