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「もう、いい加減、諦めろよ」
背後から、そんな、縋るような声がした。命令口調だというのに、なんて弱弱しい語気だろう。
まるで、哀願するような、今にも泣き出しそうな子供のような、そんな声。
長年一緒にいるけれど、朗らかな彼がそういう風な悲しげな声音を吐き出すことは滅多にない。
「……そんなに、簡単なものじゃないの」
はいそうですか、じゃあ諦めますね、そう言えて、そして本当に諦めがついたらどれだけいいことか。
どれだけ辛くても彼を想うことはやめられない。好き、という気持ちは、どこまでも厄介で。
決してお綺麗なんかじゃない。醜くて執着に近いそれ。
つう、と頬を冷たい雫が伝う。それが涙なのか、舞い降りる雪の欠片なのかはわからなかった。
今日はイエス様の生誕を祝う日。楽しい楽しいクリスマス。
イルミネーションに彩られた街は普段よりも賑わっている。青、白、赤、さまざま色のライトがちかちかと光を放つ世界は酷く幻想的で美しい。
今年は例年よりかなり冷え込み、おまけに今日は特に寒いらしく、東京でも地面が真白に染まるほど雪が降りしきっている。
小雪がちらつく中、3メートルを上回るだろう電飾が飾り付けられたクリスマスツリーがきらきらと光を放つ光景は筆舌に尽く
しがたいほど美しい。
そんなうっとりするようなロマンティックな景色を背景に、1組の男女が口付けを交わしていた。
どちらも見目麗しく、そして小奇麗な格好をしていて、まさしく誰もが羨む理想のカップル。
どちらの人物も、私のよく知る、幼馴染だった。
ああ、なんて惨めな私。ふ、と自嘲染みた嘲笑が零れた。
グレーのスウェットに、ぼさぼさの髪。おまけにすっぴんだ。
からだが熱くてくらくらと眩暈さえしていたのに、今はやけに感覚が鋭い。指先をかすった雪の触感さえ鮮明だ。
耳朶を打つクリスマスソングや人々の楽しそうな声も、普段ならば気分を昂ぶらせるものだろうに今ではただの雑音で、私の気持ちを暗くさせるだけ。
ああ、来なければよかった。大人しくベッドで寝ておけばよかった。そしたら、クリスマスにこれほど苦い思い出を残すこともなかっただろうに。
「……ごめんね、蒼(そう)。突然飛び出しちゃって」
後ろにいる優しい幼馴染を振り返らずに、そう吐き出す。
「……帰るか」
優しい彼は、ぽつりとそう言っただけだった。
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