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「亘、ご飯にしよう。」
唐突に蓮が言った。
「うん。」
僕は頷いて、袋の中から菓子パンを取り出した。
日保ちしないものは早めに食べなくては。
「食べ終わったら出発しようね。」
蓮はイチゴジャムのパンを頬張りながら言った。
「……よし。
誰もいない。」
それから数分後、蓮は橋の上から辺りを見回し安全確認をする。
僕は橋の下で、荷物を持って待機だ。
「亘。」
橋の上からひょっこり顔を覗かせた蓮が僕を手招きした。
僕は深く傘をさして蓮の元へ向かう。
雨だと顔を隠せて都合が良いかもしれないな……
そんなことを考えた。
「こっち。」
蓮は迷う様子もなく向かう方向を指差した。
案外鋭い方向感覚の持ち主らしい。
蓮は上手に大きな道を避け、裏道を進んで行く。
「亘、前から人が来る。」
しばらく経った頃、蓮が小声で囁いた。
僕は傘をいっそう深くさして息を潜めて歩く。
挙動不審になってはならない。
蓮は数歩僕の前を歩き、前方の歩行者から僕を守るようにして進む。
幾度となく味わってきたが、やはり慣れない瞬間だ。
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