1章

5/7
前へ
/109ページ
次へ
画面の中では、小さな掃除機のようなものを持った男がほほ笑んでいた。 深夜のテレビショッピング。 観客は大げさに拍手を送る。 ピ、 画面は切り替わり、ニュース番組になった。 玉突き事故や、国外の自爆テロのニュースが流れる。 ピ、 次はバラエティー番組。 ピ、 天気予報。 「えっと……、亘?」 いつの間にか後ろにいた蓮が、おずおずと話しかけてきた。 「……明日の降水確率60パーセントだって。 傘、持って行った方がいいかも。」 僕はそう言うと、テレビを切った。 「あ、傘!」 蓮は思い出したように叫んで玄関に走って行く。 僕は消えたテレビを睨みつけた。 どうしてなんだ。 テレビの中は今まで通りの現実で、なのに俺はその現実から爪弾きにされてしまった。 僕は、どうして命を狙われている? 「さ、亘。出発しよう。」 「あ、うん。」 蓮の声で我に返り、僕はコクッと頷いた。 そして重いリュックを背負う。 「気持ちいいね。」 蓮は外の空気を思い切り吸いこんで言った。 真夏とはいえ、深夜の空気は涼しいものだった。 先ほどまで閉め切った部屋の中で息を潜めていたことを考えると、生き返る思いだ。 「こっち。」 蓮は僕の前に立ち、歩き始めた。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加