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「できるだけ人けのない道を通って行こう。」
蓮は辺りを注意深く警戒しながら、しかし早足のまま言った。
普通なら逆だろうになぁと、僕は心の中で呟く。
『人けのある』道を避けなければならないなんて。
「別荘ってかなり遠いんじゃない?」
僕は不安になって言ってみた。
『別荘』なのだ。
歩いて行ける距離に作るはずがない。
「そうだね、すごく遠いかも。」
蓮は問題にしている様子もなく、さらりと言った。
「電車使うの?」
一応確認のため聞いてみる。
「死にたいの?
歩くに決まってるじゃん。」
蓮の答えは予想通りだった。
「多分行くのに数日はかかるよ。ビジネスホテルに泊まったりとか野宿とかしないとね。」
「そう……」
僕はそれ以上何も言えなかった。
蓮がこんなことをするのは僕のためなのだ。
僕は文句を言える立場にはない。
「日が昇る前に隣町までは行こうね。」
蓮はそう言っていっそう歩調を速めた。
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