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「……」
足音が遠ざかっていく。今、メアの部屋の前には誰もいない。
涙も枯れ、虚ろな目で茫然と佇んでいたメアもその情報を聞いて我を取り戻した。
「バン…来たんだ…。」
涙で濡れた枕をひっくり返し、乾いた布に顔をウズませる。
「会えないよ……こんな顔で。」
泣き疲れたメアの瞼は腫れ、意識をせずとも眉は八の字に垂れるようになっていた。
不安に塗(まみ)れた顔。こんな暗い自分をもしバンが見ようものなら間違いなく嫌われてしまう。
メアのこの勝手な思い込みは、表情をさらに歪ませていった。
「父さん…気を効かせてくれたのかな?それとも……」
『お前をもう戦わせない』
冗談とは思えない声で発せられた父の言葉。メアが戦わないのなら自分がとでも思っているのだろうか。
どちらにせよ、遠回しな表現でしか愛情を伝えられない不器用な父親の思いは、メアを余計に混乱させた。
(強くなれってなに?……もう、戦わなくていいんじゃないの?)
そして何より、自分だけいつまでも塞ぎ込んでいるという不甲斐なさがある疑問を生んでいた。
「どうしてみんな…そんなに強いの……?」
メアには糧が無かったのだ。追い詰められたときに自分を奮い立たせるようなバネのようなものが。
「あんなに強い魔族から、命を狙われてるんだよ…?」
メアはバン達以外の存在に負けたことが無かった。自分の持つ力を誇りに思い、つい最近まで胸を張って歩いていた。
どこか姉御肌な自分に酔っていたのかもしれない。
シェリアが頼ってくれる。
ウェルが頼ってくれる。
バンが、頼ってくれる。
自分が引っ張っていくものだと思っていた。
「エルまでなんで…?…もう訳わかんない………。」
悩んでいても仕方ない。自分には父が作ってくれた新たな道があるではないか。
もう、戦わなくていい。
ただ守られるだけ。
「……」
(守られる……だけ?)
守られるメアの側には誰がいるのか?誰もいない。
戦う仲間の側にメアはいるのか?メアを守って傷付くだけ。
「嫌だ…置いて行かないで……」
メアは誰かを求めるかのように枕を抱き締める。枯れていたはずの涙が再び溢れ出た。
止まっていたはずの震えが再びメアを襲った。
「怖いよぉ……みんなぁ……」
答えを出せないメアは誰かに会いたくても会えない。
メアはもがくこともできず苦しんでいた。
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