エル・ソルト

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香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。食堂には既に朝食が運ばれているようだ。 エルは笑みを浮かべつつ足を踏み入れる。 「父上、母上。おはようございます。」 「む、エルか。今日も邪魔くさい髪だな。」 中には既に家族が揃っていた。エルは直ぐに恭しく挨拶を交わす。名家だけあって親に対する尊敬が普通とは異なるようだ。 それに対し、エルの父であるウルは、エルがまるで目障りであるかのような目で見ていた。 「おはよう、エル。」 母、サヤは笑顔でエルに挨拶をする。ウルとは違ってエルを嫌ってはいなさそうだ。 これらはいつも通りの事。エルは所定の席に着くと、真っ先に父へと話しかけた。 「父上、今日のフロール王国との初めての交流試合、必ず優勝して見せます。」 この日は特別な日であった。 エルの住む国であるスローラル王国と、北の隣国であるフロール王国との、五大貴族同士の交流試合が開かれるのだ。 意気揚々と述べるエルを、その隣に座る少年が嘲る。 「何を言ってるんです。魔力の少ない貴方はいつも負けてるじゃないですか。団体戦だから4カ国の中でもっとも優秀な五大貴族と言われているんです。個人戦ならあなたは最下位ですよ。」 アル・ソルト。エルの弟である。 エルはアルの言葉を聞いて煩わしそうに顔を顰めた。 「フンッ、言ってろ。僕が負けるはずがないんだ。」 その自信の出処は自分でも分かっていない。それでもエルはまるで自分が負けるはずが無いと断言するのだ。 「エル、お前は良い加減その肥大な自尊心を改めたらどうだ。下町の民たちもお前の傲慢な態度に呆れ返っているぞ。」 ウルはエルの態度を改めるように諭す。しかし、エルはテーブルに置かれたティーカップを口に運び、全く反省の無い態度でウルに返事をした。 「ふんっ、薄汚い平民なんか黙って僕のような貴族に従っていればいいのですよ。」 「な、何だと……?」 ウルとアルは強大な権力を振りかざすエルに苦言を呈していた。この二人だけでは無い。彼はもはや知られた人間のほとんどに嫌われているのだ。 二人の嫌悪も露知らず、エルはこの日に行われる交流試合の事を考えていた。 「僕は絶対に勝つ!どんな手を使ってでもね……」 誰にも見えないように不敵な笑みを浮かべるその姿はまるでどこぞの悪代官のようだ。そこに正義など欠片も存在していなかった。
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