エル・ソルト

6/17
前へ
/453ページ
次へ
季節は春。外は陽気に満ち溢れ、暖かさに包まれている。 そんな中を、イリスは噴気を飛ばしつつ闊歩していた。 「ふう……どんな奴だったか忘れたけど、ロクな奴じゃなさそうなのよねー、あいつ。」 イリスは会場の外に出ると近くのベンチに座った。晴れ渡る青空とまだ少し肌寒い風がイリスの頬を撫でる。 彼女は憂鬱のあまり、またもため息をついてしまった。 その時、 「それは心外だね、フロール王国のイリスお嬢様。」 「ッ!?誰よ!?」 イリスは突然話しかけられ、慌ててベンチから立ち上がる。そして直ぐに目の前に現れた金髪の男に警戒の目を向けた。 「こんにちは、スローラル王国の雷の柱が嫡男、エル・ソルトと申します。」 「出たわね……!エル・ソルトがあたしに何の用よ。」 イリスは目の前の男が憂鬱の原因であることに苛立ちつつ、何故このタイミングで自分の前に現れたのかを不思議に思った。 「いやぁ、実は君に頼みたいことがあってね……」 「はあ?頼みたいこと?何よ……」 「うん─────」 いきなり何を言い出すのか。そう思ったイリスはこの時点で嫌な予感がしていた。 そして、その予感は直ぐに的中する事になる。 「今日の試合、負けてくれないかな?」 「……………は?」 目の前の男はイリスに試合でわざと負けてくれと要求した。 イリスはエルのあまりにも堂々とした態度に呆然としてしまった。
/453ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30840人が本棚に入れています
本棚に追加