エル・ソルト

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「あ、あんた……自分が何を言っているかわかってんの!?」 イリスはエルのあまりにも突飛な要求に思わず立ち上がった。 「もちろん、ただでとは言わないよ。負けてくれたらお礼として君の言う額だけのお金を払うよ。なんなら僕の父上が統治する地域の平民を奴隷として献上してやってもいい。」 「なっ……最低よあんた!民を何だと思っているの!?誰があんたなんかに従うか!」 イリスがその考え方の愚かさを気付かせようとするが、エルは聞く耳を持たなかった。その上、彼の傲慢ぶりはエスカレートするばかり。 「へぇ、良いのかい?話しによると、君のとこのお父上殿は職務を果たすための資金が足りていないそうじゃないか。」 「くッ……!」 エルは執拗にイリスに揺さぶりをかける。 辛うじてエルの横柄な態度に耐えていたイリスだったが、それもエルの駄目押しによって倒壊。 堪忍袋の緒が切れた。 「ふざけないで!!このッ……屑貴族が!誰があんたみたいな最低な人間に従うか!!」 きっぱりと拒絶する。これでもどうにか押さえ込んだ方だ、もう少しで罵詈雑言を浴びせていた。 イリスの言葉が効いたのか、エルは馬鹿にされて余裕な表情を一変させ、顔を顰めた。 「い、言ってくれるじゃないか……!後で破綻して後悔しても知らないぞ!」 「なんっ…….え!?」 イリスは驚いた。 余りの鬱陶しさにいい加減エルを黙らせようと思ったイリスだが、何と逆に黙らされてしまったのだ。 それは何故か? 「お、憶えてろ!!」 「………」 エルが散々言うだけ言って逃げたからだ。唖然とするうちにその姿はすでに遠く向こう。 ぽつんと置いてけぼりにされたイリスは項垂れてしまった。 「……ふふ………」 湧き上がって来たのは不気味な笑み。心なしか、また肩がぷるぷると震えている。 「……ふふふふふふっ……!」 不気味な笑みは、ひとしきり続くとピタリと止まった。そして、ゆっくりと俯いていた顔が上げられた。 それは正に般若(はんにゃ)のよう。 「あの野郎ッ……!後でぶっ潰してやるわ!!」 会場の外に出て直ぐにあるベンチ。その側に、殺意に燃える一人の少女がいた。
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