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それは、ある晴れた朝のことであった。
とあるアパートの一室で、けたたましく目覚まし時計が鳴り響く。
「ん………うるさいな。」
畳の上に敷かれた布団。その中から青年の眠そうな顔が生える。
青年は出来る限り腕を伸ばし、鼓膜を圧迫する音に顔を顰めながらも目覚まし時計を止めた。
「はぁ……眠い……」
青年はフラフラと立ち上がり背伸びをする。余程寝相が悪かったのであろう、髪はボサボサである。
そしてリビングまで繰り出すと習慣付いているようにテレビを点け、朝のニュースと星座占いに目を向けた。
「……ぬあっ………」
結果は十二位。活力をただのニュース番組に持って行かれた気がしたが、気を取り直して朝食を済まし外出の支度を整える。
そして着替えを済ませると、日課であるアルバイトへと赴くのだ。
「はぁ……歩きか。バイト先遠くしすぎたか?」
青年は一人暮らしで、両親は青年が生まれてすぐに交通事故で死んでいた。学費と生活費のため、大学に通いながらバイトを続けているのだ。
そんな境遇に見舞われながらも、今を平々凡々に生きる彼にはアルバイトなど煩わしく思うものでもあった。道行く足取りが重くなっている気持ちも理解できることだろう。
「……あ?」
そんな時、いつも通る道であるものを発見する。
(この場所は……今建設中なのか。何が建つんだ……?)
ビルの建設工事だ。まだ半ばの段階なのか骨組みが剥き出しになっている。
青年はぼんやりとその前を歩く。そして、ある程度通り過ぎたところで、視線を進行方向に戻した。
その時の事だ。
『───危ないッ!!!』
「へ……?」
男の野太い声が頭の上から響いた。青年は歩みを止めずに、声が聞こえた上方に顔を向けた。
「なん───うおッ!?」
数十センチ真後ろ、そこから金属物が激しくぶつかるような轟音が青年の鼓膜を強く刺激する。
青年はその音に驚き、思わず前に転がり込んだ。
慣れない前転の末に顔を顰めながら後ろを確認すると、そこには無骨で巨大な鉄筋が転がっていた。
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