エル・ソルト

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「この子に近づくんじゃないわよナルシスト!何回振られれば気が済むのよ!」 「ふんっ……君こそ下がっててくれないかな。」 エルは今までに何度もシェリアにアプローチをしかけている。だが、いつもこの様にして失敗しているのだ。 その様にして騒がしくしている最中の事だ。 『ただいまより五大貴族交流試合を開催いたします。選手の皆さんは入場口にて待機してください。』 突如、控え室にアナウンスがかかる。その音に反応し、室内の五人は動きをピタリと止めた。 「ほら、始まるよ。」 「ふん、まあいいだろう。」 “水”の少年の声に、エルはまたも鼻を鳴らして偉そうな態度をとる。これまでの態度から判断するに、エルはシェリア以外とは馴れ合わないようだ。 「チッ……」 「ったく……」 「………」 いかにも険悪な空気が室内を支配する。そして、その空気感を保ったまま五人は入場口へと動き出した。 入場口はシャッターで閉ざされている。しかし観客達は選手の登場を予期しているのか、もう直ぐ登場というところで既に会場は賑わい始めた。 『それでは選手が入場します!まずはスローラル王国の五大貴族の皆さんの入場です!!』 盛大な音楽が鳴り始める。それを合図に、大人しく入場口に待機していたエル達は歩き始めた。 『ワアアアアアアアアアッ!!!』 入場口から闘技場に入場する。その際、エル以外の四人は真剣な表情を浮かべて歩みを進めていたが、エルは観客席に手を振ってヘラヘラと笑っていた。 そんなエルの様子を見て、観客席に居るウルはまたも苦言を呈していた。 「あのバカ……」 「ウルさん、君のところの息子は大丈夫かい?」 「返す言葉もない……あんな愚息で本当に申し訳ない。」 ウルに話しかけたのは、同じ五大貴族の“水”の当主だ。苦笑いを浮かべてウルの方を見ている。 「ふむ、ウルがしっかりしているからな。その息子なのだから、案外しっかりしているのではないか?」 「………」 今度は“火”の当主だ。 褒められて嬉しいはずなのに、ウルは何も言えなかった。何故ならウルから見たエルはどう見てもしっかりしていないからだ。 もはや閉口するしかないのだ。
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